ニュースの概要
ダイドードリンコ(DyDo)が、コーヒー豆を一切使わずにカフェラテの風味を再現した新商品を発表した。香りの主成分には焙煎したヒヨコ豆(=ひよこ豆)を用い、独自の加工技術でコーヒーに近い苦みと香ばしさを引き出しているという。日本経済新聞の報道によれば、同社は世界的なコーヒー豆の価格高騰や気候変動による供給不安を背景に、この代替原料の開発を進めてきた。アラビカ種・ロブスタ種ともに国際相場が過去最高水準で推移するなか、缶コーヒー市場で存在感を持つDyDoが、主原料そのものを置き換える挑戦に踏み出した点が注目される。
引用元: DyDo、コーヒー豆不使用のカフェラテ ヒヨコ豆で香り再現(日本経済新聞)
分析・見解
コーヒー危機が生んだ「豆を使わないコーヒー」という発想
国際的なコーヒー豆相場は、ここ数年で歴史的な高値圏に入っている。主要産地であるブラジルやベトナムで異常気象や干ばつが続き、アラビカ種・ロブスタ種ともに収穫量が安定しない状態が続いているためだ。缶コーヒーや飲料メーカーにとって、コーヒー豆は価格変動リスクが極めて高い原料になった。今回DyDoが香りの主成分としてヒヨコ豆(=ひよこ豆、乾燥豆の一種)を採用したのは、単なる話題作りではなく、原料調達の構造そのものを見直す動きだと捉えるべきだ。ヒヨコ豆は栽培地域が広く、乾燥や高温にも比較的強い作物で、収量も安定しているため、気候変動下でも調達計画を立てやすいという利点がある。
焙煎加工で香りを「設計」する、食品科学の進歩
コーヒーらしい香ばしさの正体は、豆を焙煎する際に起こるメイラード反応(=糖とアミノ酸が熱で結びつき香り成分を生む反応)にある。この反応自体はコーヒー豆特有のものではなく、適切な糖とアミノ酸の組み合わせがあれば、ヒヨコ豆のような他の素材でも近い香気成分を作り出せる。食品メーカー各社はここ数年、香気成分の分析技術と焙煎条件の制御技術を急速に高度化させており、「コーヒーらしさ」を豆以外の原料で再現する土台がようやく整ってきたといえる。
代替コーヒーは目新しくないが、今回は本気度が違う
コーヒー豆を使わない飲料自体は、タンポポコーヒーやチコリコーヒー、大麦を使ったコーヒー風飲料など、過去にも存在した。しかしこれらは「風味が物足りない」という評価にとどまり、ニッチな健康志向市場を出ることはなかった。今回の違いは、缶コーヒー市場で大きなシェアを持つ大手メーカーが、量産を前提にした技術として開発した点にある。原料置き換えが実験室レベルではなく、工場で再現可能なレベルに達したことを意味している。
カフェイン・コーヒー不使用市場はどこまで広がるか
妊娠中の女性や子ども、カフェインに敏感な層、さらに環境負荷を気にする消費者まで、コーヒー豆を使わない飲料へのニーズは確実に存在する。今後は「コーヒー不使用」を弱点ではなく選択肢として打ち出せるかが普及の鍵になる。気候変動でコーヒー豆の調達リスクがさらに高まれば、同様の代替原料開発は他の飲料メーカーにも広がっていく可能性が高い。すでに海外では、焙煎した大麦やチコリ根を使った代替コーヒー飲料市場が緩やかに拡大しており、DyDoの挑戦はこの潮流が日本の大手メーカーにも本格的に波及した事例として記録されるだろう。
ビジネスへの影響
原料価格高騰への耐性を商品設計に組み込む発想
コーヒー豆やカカオ、小麦など、気候変動の影響を受けやすい農産物を主原料とする商品を持つ企業にとって、DyDoの事例は示唆に富む。原料そのものを代替素材に置き換える選択肢を技術として持っておけば、価格高騰時に値上げだけに頼らない価格戦略が取れる。自社の主力商品がどの農産物に依存しているかを棚卸しし、代替可能性を検討することは、調達リスク管理の一環として今後重要性を増すだろう。特にDyDoのように大量生産規模で商品を供給するメーカーが代替原料の量産技術を確立したことは、原料供給網そのものを分散させる選択肢が現実的になったことを意味し、同業他社の調達戦略にも影響を与えるはずだ。
「コーヒー不使用」をどう伝えるか、表示とブランディングの両立
代替原料を使った商品は、正直に「コーヒー豆不使用」と表示しつつも、味の魅力をきちんと伝える工夫が必要になる。隠すと不信感を招き、前面に出しすぎると「本物ではない」という先入観を強めてしまう。DyDoの発表の仕方は、原料の工夫を技術力としてポジティブに打ち出しており、ニュースとしての話題性も獲得している。自社商品でも、制約を技術的な挑戦として語り直せないか検討する価値がある。
中小企業にも応用できる、ニッチ原料テストの好機
大手メーカーが代替原料の実用化を進めることで、関連する加工技術や原料供給のノウハウは徐々に業界全体に広がっていく。中小の食品・飲料メーカーにとっても、今のうちから自社の主力原料における代替候補を調べ、小ロットでテスト商品を作っておくことは、将来の原料不足や価格高騰に備える実践的な一手になる。原料調達の多様化は一朝一夕では実現できないため、今回のニュースをきっかけに、自社が依存する主要原料のリスト化と代替候補の洗い出しを始めておくことが、数年後の差別化につながるはずだ。